雨の日のノート

湿ってて書きづらいあれ

It’s True: The Truth About Chalcatongo Mixtec 解説

問題

原題とその解答はこちら: https://nacloweb.org/resources/problems/2018/N2018-J.pdf
https://nacloweb.org/resources/problems/2018/N2018-JS.pdf

1. 以下にChalcatongo Mixtec語(以下CM語)の文とその訳がある。対応させよ。翻訳で太字になっている部分はChalcatongo Mixtec語でも強調されるように書かれている。1はaと対応する。

CM語 日本語
1 Nduča kaa ñíɁní. 水が熱い。
2 Maria kúu ɨɨ xasúčí. Pedroは私の子だ。
3 ÑíɁní nduča. Juanは私の夫だ。
4 Juan kaa lúlí. それが緑色だ。
5 Ndežu kaa žaɁu. Mariaは若い人だ。
6 Súčí Maria. 水は熱い。
7 Juan kúu xažiirí. Mariaは若い。
8 Pedro kúu xalúlírí. 食べ物が高価だ。
9 Kaa kwíí. Juanが小さい/背が低い。

以下にCM語の語彙が与えられている。

CM語 日本語
ndáa 本当の
bíší 甘い
bèè 重い
tûû 黒い
ndeɁé 勇敢な
kǔnú 深い
ñíɁní 熱い
kwaɁá 赤い
súkú 背が高い

2. 以下の語や文をCM語に訳せ。

a 深さ
b
c Mariaは勇敢だ。
d Pedroが背が高い。
e Pedroは背が高い人だ。
f 果物は赤い。
g 私の果物は緑のだ。
h それが本当だ。
i それは本当だ。
j それが真実だ。

解答

1.

CM語 日本語
1 Nduča kaa ñíɁní. 水が熱い。
2 Maria kúu ɨɨ xasúčí. Mariaは若い人だ。
3 ÑíɁní nduča. 水は熱い。
4 Juan kaa lúlí. Juanが小さい/背が低い。
5 Ndežu kaa žaɁu. 食べ物が高価だ。
6 Súčí Maria. Mariaは若い。
7 Juan kúu xažiirí. Juanは私の夫だ。
8 Pedro kúu xalúlírí. Pedroは私の子だ。
9 Kaa kwíí. それが緑だ。

2.

a 深さ xakǔnú
b xañíɁní
c Mariaは勇敢だ。 NdeɁé Maria.
d Pedroが背が高い。 Pedro kaa súkú.
e Pedroは背が高い人だ。 Pedro kúu ɨɨ xasúkú.
f 果物は赤い。 KwaɁá xabíší.
g 私の果物は緑のだ。 Xabíšírí kúu xakwíí.
h それが本当だ。 Kaa ndáa.
i それは本当だ。 Ndáa.
j それが真実だ。 Kúu xandáa.

文法

1. 「AはBだ」の言い方
3通りの方法がある。

Aが強調されているとき
A kaa B
Aが強調されておらず、Bが形容詞のとき
B A
Aが強調されておらず、Bが名詞のとき
A kúu B

2. その他

  • 形容詞の頭にxaをつけると名詞になる。
  • 「私の」を表すには名詞の最後にríをつける。
  • 「それは/それが」は省略してよい。

解説

1.
 まずは1とaの文が対応すること、ñíɁní「熱い」が提供されていることから、3とカが対応するとわかる。またこれよりñíɁní「熱い」の他、nduča「水」も得られた。ここで、1「水 kaa 熱い」と3「熱い 水」の違いは「水」が強調されているか否かだけであるので、次のような仮説を立てよう。

「AはBだ」は、Aが強調されているときA kaa B、強調されていないときB Aと表現する。

とりあえず文の対応づけを進めていこう。CM語にも訳にも固有名詞Pedroは1回しか出てこないので、8とイが対応するとわかる。次はMariaに着目すると、(2, 6)と(オ, キ)の組がわかる。おそらく「若い」より「若い人」の方がCM語でも長いだろうと推測すると、2とオ、6とキを対応づけられる。2の文から、súčí「若い」が得られるだろう。
ここで2の文と8の文を見比べる。日本語訳に出てくる単語は共通しないが、kúuという語が共通している。イとオの共通点は(これは全ての文に共通だが)「AはBだ」という形の文であることだ。つまり「AはBだ」の表し方にはA kúu Bというのもあることがわかる。すると ɨɨ xasúčí「若い人」xalúlírí「私の子」がわかる。さらに、形容詞から「〜な人」と言うときは、ɨɨ xa[形容詞]と言うようだ。そういえば、CM語の全ての文がA kaa B, B A, A kúu Bという構造をしているので、これで構文の種類については網羅した。あとはそれらがどう使い分けられているのか考えれば良い。
与えられた文をじっと眺めると、súčí「若い」とɨɨ xa-súčí「若い人」と似たようなlúlí「?」とxa-lúlí-rí「私の子」のペアがあることに気づく。Juanという固有名詞と合わせて考えると、lúlíは「私の夫」というよりは子供の特徴と言える「小さい/背が低い」が近そうだ。よって4とケ、7とウの対応がわかった
また文を見つめてみよう。xa-lúlí-rí「私の子」とxažiirí「私の夫」という組がある。xa-[○○]-ríで「わたしの○○」になるのだろうか?そうするとxa-lúlí-ríは「私の小さい/背が低い」となり意味が通らないが、xa--ríはもともと形容詞について「私の○○な人」を表すと考えれば問題ない。しかし2.では「深い」「熱い」が与えられて「深さ」「熱」を訳せと言われているのだから、何らかの方法で「私の」の意味が加わらずに形容詞を名詞にできると考えるのが自然だろう。xa--ríという1つのまとまりではなく、xa-と-ríという2つの単位に分けられるのだろう。xa-はɨɨ xa-súčí「若い人」と、「私の」の意味を含まない場合にも使われているので、-ríが「私の」の意味だと考えられる。そうするとxa-が名詞化だろう。この言語では「子供」を「小さいもの」と表すらしい。
さて、対応させるものとしては5, 9とエ、クがある。9はKaa kwíí.と、kaaの他に1語しかない。「食べ物が高価だ。」と「それは緑だ。」とでは、省略できるとすれば特に大きな意味を持たない「それは」だろう。よって9とエが対応し、それで5とクが対応するとわかった。
 最後に、「AはBだ」を表すA kaa BとB A, A kúu Bの使い分けを考えよう。A kaa Bとなっている文の日本語訳は全て主語が強調されている。他の文では主語が強調されていないのも確かめて 主語を強調するときA kaa Bを使うとわかった。また主語を強調しないときB Aは「Aは[形容詞]だ」、A kúu Bは「Aは[名詞]だ」を表すとわかる。
2.
 上で見つけた規則、上で見つけた語、問題で与えられた語を使えば訳すことができる。「果物」がわからないかもしれないが、いったん他の文を全て訳すと与えられた語の中で「甘い」が使われていないと気づくので「甘いもの」と表せば良い。